風景に木質はありますか?

プランター植栽事例

最近の都市開発では木質が非常に少ないと感じます。
金属やプラスチックの単調な質感がスマートだと言わんばかりに露出されています。
『そこは木質で!』というような要望が出そうなところでは、木質に似せたプラスチックやアルミニウム素材の建材に代用されています。
ここ数年の傾向では、『いかにも木質に見えるだろう!?』と主張する素材はあまりないのかな?
木質に似せたところでそっくりにすることはできないので、「木質のデザイン感だけを頂いちゃおう!」という感じでしょうか。プリントした壁紙みたいな感じ。
他の材で作ったら『高価になるからここは木質で¥』という考え方もあります。こういった場合SPF材を使用するのですが、このとき木質は軽く見られているのでしょう。土木の現場などで使用される仮設材は木質が使用されます。大体は使い捨てで便利に使われているなと思うほどに。それでも強度や軽さ、加工性を省みてみると他の材料には絶対に真似できない特徴があるのが見えてきます。

都市ではこんなものばかりが目について、木質がかわいそうです。
木質は人間に最も近い存在です。
進化の中で人間になる以前、獣であった時期から抱かれて、寄り添い、触れ合ってきたもので無意識の安心感があります。
思考では理解できないものです。

風景を見て感受性を表す『情緒』という言葉があります。
この情緒を感じる要素には、風景の『風化』があります。
石には苔が生え、鉄は錆び、木質は優しくなり親和性が増す。
そうなるには時間の経過が必要なのですが。
このような『風化』を考慮している素材が現在の都市開発に見つかるだろうか?

日本の木材需要は1980年代から海外産に置き換わった

現在、国内で使用される木材の大部分は海外産です。
このことは先頃の”ウッド・ショック”で語られた通りです。

1970年代 後半 国内では、H.C(ホーム・センター)の出現がありました。
それまで、木材は木材屋さんか、町の建材屋さんから調達するのが一般的でしたが、より簡単にH.Cから入手可能になったのです。
この時代の国産木材は流通ルートが決まっていて、新参者のH.Cが優位に販売できる環境ではありませんでした。
そのため、H.Cは海外産の木材をメインとして、その他 品質に満たない国産木材を取り扱いました。
海外産の木材は、東南アジア産のラワン材などがメインでした。品質に満たない木材にはヤナギ材などもありました。

このHC出現と同時期にD.I.Yのブームがありました。
(DIY:Do It Your Self !の頭文字です。)
家庭用の電動工具などが発売されたのもこの時期です。TVの番組でも日曜大工という番組も話題になっていました。

多くの人々がD.I.Yを始め、H.Cで木材を入手しました。
世界の開発と共に伐採林の供給が増え、日本でも木材も自由化されるとH.Cでは輸入SPFを取り扱う様になりました。
(SPF:spruce-トウヒ、Pine-マツ、Far-モミ)

1980年代 後半 日本では空前のログハウスブームがあります。
(ログハウス:針葉樹の大径丸太を皮むきのみ行い、これを積み重ねて小屋をつくる。北米の西部開発時に行われた仮屋を応用した家屋)
自然思考の人が増え、自然と共に暮らしたいという願望を叶えたいというものだったのではないでしょうか。
しかし、日本においてのログハウスは、北米産の針葉樹を輸入して造作することが基本となっていました。
最初は屋外で耐久性に優れたベイヒノキ、レッドウッドなどのグレードが高い樹種が主流でした。
まもなく日本の旺盛なログハウスブームは米国の環境破壊に繋がっているという認識から、現地の森林管理局は天然林の輸出規制を行います。
天然林の伐採禁止、輸出禁止の処置がとられます。
北米で商品価値の高くないSPFは規制の対象から外れたことから、日本ではSPFのログハウスが主と変わりました。
その他、製材された木材で組む製材ログハウスも増加します。

この時期、日本の主要木材は消費者の興味から完全に外れてしまっていました。
国産木材は大径木がない、屋外で腐りやすい、高価である、入手ルートがないなどの原因がありました。

住宅に使用する木材も次第にSPFへと変わっていったのです。

日本人はなぜ自国の木材を使わなくなった?

日本の森林面積率は世界第2位で、国土の67%が森林です。
しかし、それに反し日本の木材自給率は非常に低いのが実情です。
他方、日本の地方や中山間の問題は、社会生活に影響を及ぼすほど寂れてきています。
何が問題なのでしょうか?

日本人が自国の木材を使用しなくなったのはどうしてなのでしょうか?
一般的に理由として挙げられるのは、
「日本は戦時の被害で多くの都市が焼け野原となり、復興のための木材需要が逼迫し、一気に伐採を行なったため資源が枯渇してしまったことによる。」というものです。
異なる説もあります。
「朝鮮戦争中、現地に物資を運ぶための鉄道の需要が高まったことから、鉄道枕木に使用する木材をとるため日本の山々が伐採され枯渇してしまった。」というものです。
また異なる説もあります。
「日本の多くの里山は、人口が増えた江戸時代から焚き火の燃料とするために常に伐採され尽くされ、既に木材資源は枯渇していたから。」というものです。

さまざまな理由が挙げられますが、共通するのは時期がどうであれ、『木材資源が枯渇したため生産出来なかった』ということです。
更に、国民生活が向上した高度成長期には住宅の需要が高まり、国内の木材価格が異常に高騰しました。
この時の供給元の事業団体は売り手市場だったことを利用して、法外な利益を得ていたという文献も存在しています。
それならばと需要者は海外の木材に供給先を切り替えたということもありうるのかとも想像されます。

日本の木材の供給者は口を揃えた様にいう台詞があります。
それは、『川上から川下まで』という言葉です。
川上つまり生産者から、川下の需要者までの流通システムを確立するべきとする方法です。
二つの方法が考えられます。
ひとつは、木材生産者が単独で、川上から川下までの一連の産業を行う方法。
もうひとつは、木材生産者が川上で、木材需要業者が川下で、それぞれが分業を行い、組み合わせて一連とする方法。
どちらが良いのでしょうか?

日本の各地の木材生産者は、ある時期に自分達自ら木材を加工し、家具などをつくる事業を始めました。
現在でいうと第6次産業と同様な考え方です。
しかし、このような方法はなかなか上手くいきません。

木製品はそれを作る専門の事業者が存在し、その専門の職人が製造を行います。
業種は多様です。
大規模建物を建てる建設会社、住宅メーカーと大工、家具メーカーと家具職人、食器メーカー、アクセサリーなどのクラフト職人など、
さまざまな業種と技能があります。
このような業種に経験のない木材事業者が参入しても、一朝一夕に良い製品を作り上げることはできません。
経験のない新規の事業者の多くは安さを売りにして市場に売り込むのです。
大きな問題は、材料の価値、製品の価値を下げてしまうことです。

その結果、木工製品をつくる業界・業者らは売上不振に陥ってしまうのです。
困った需要業者は海外のより安価な木材を求めるか、あるいはより機能性に優れた木材を求めるかの選択を行います。
当然に日本産の木材は販売不振に陥ります。

このようなことが日本の木材生産の大問題なのです。
住宅メーカーで日本産木材を使用している会社はどのくらいあるのでしょうか?