何年か昔のお話になります。
私が社会に出て初めて入社したのは椅子メーカーでした。
椅子以外にも多岐にわたり工業製品を製造している会社です。
ですから、椅子メーカーということではない部分も多くあった訳ですが、世間から見ると”椅子の…”という認識だったのです。
私はこの会社で景観部門に配置され、顧客とするランドスケープアーキテクトやその部署の行政官との打ち合わせを行う仕事に就きました。
打ち合わせ内容を元に社内でデザイン図を起こし、製品づくりを行うという流れです。
私は景観づくりという仕事がこのように存在するのだということは仕事に就いて初めて知りました。
景観という言葉の意味もここで再認識するまで殆ど無意識だったのです。
この会社では当時FRPという強化プラスチックの製造も行なっていました。
現在でもモーターボートやサーフボードなどのスポーツ用品に多用されている素材です。
型(成形型)を作れば同一のものがいくつも抜ける(生産できる)のであらゆるモノづくりに用いられていました。
当時の公共緑化事業では植物を植えるためにプランターという大きな容器を用いることが多く、私の勤める会社でもFRPでこれを製造し納入していました。
ところが、街中を歩いていると陳腐化してみすぼらしくなっているこのプラスチック製プランターを目にして不思議な気持ちになりました。
プラスチックが割れて見るに耐えないものもすぐに見つかりました。
調査してみると納入後1年目は綺麗、2年目はまあまあ、3年目綺麗ではない、4、5年目 無い方が良いという感じです。
景観を作るという目的の事業があり、そして景観を損なう製品がある。
景観というものを意識したばかりの私にとっては納めどころのない気持ちになりました。
このことがきっかけで他の素材によるプランターが必要だと思ったのでした。
木材で作ったプランターが日本の景観に合うという意見もありました。
しかし、当時は”木質排斥”とも感じられる世間の流れがありました。
”木は腐る、割れる、長持ちしない、製作に手間がかかる、コストがかかる、産業的ではない”
木質はみな”劣っているもの”として一緒くたに捉えられていたのです。
その会社には11年間務めてから退社して自分で仕事を行うようになりました。
それから様々な風景に出会い、そしてガーデニングに出会ったことも影響し、 ”日本の景観には木質の製品が似合う”という意見には共感を膨らませました。
プラスチック製や他の素材よりも優れた木質プランターを作るにはどうしたら良いのか?ということを考えながら製品を作ることを始めました。
様々な木質を試し、植物を植えてみて、年月をかけて観察し、デザインを向上させながら改良し続けています。
いままでの成果が、製品としてのフラワーベッドベースです。
景観というものを意識してから30数年の月日が過ぎていました。
※ 私の務めていや会社ではFRP製プランターの製造は私が入社した年に終了しています。